片腕のオペレータとして現場復帰した永田さんは、自宅の新築を機に自分の会社を設立する。
「親父に内緒で自分の建設会社を興したけれど、すぐにバレた」それがジェイビルド株式会社だ。最初は民間工事と公共工事の下請けから始め、やがて自社で神奈川県の入札参加資格を取得し、公共工事の入札に参入してゆき、現在に至る。
このEW60Eは左手でコントロール操作が出来るようにカスタマイズされた機体である。
外観、キャビン内共に目立った改変部分は見受けられない。一見、標準の機体のようである。
以前は床に穴をあけ、フットコントローラで操作を行う他メーカーの機体もあったという。
この機体も当初はフットコントローラ操作で改変予定だった。
実際に変更したのは左側のジョイスティックのみ。
純正のボルボのものからスチールリストのものに付替えてある。右側はボルボのままだ。このスチールリストのジョイスティックがあったことで物理的な改変を避けることが出来た。
左右レバーで通常の操作、左側のみでアタッチメントのチルト、ローテーション、開閉の操作を行う。
キャビン右に配されたパネル類は3つ。一番大きなものがEW60Eの状態表示用でバックモニタも兼ねている。横の2段に分かれている上側がクレーンモード用のモニタ。下の一番小さいものがスチールリストのモニタ。このモニタで利用者の選択が可能になっている。アタッチメントやオペレータによりジョイスティックのボタンの割り当てをカスタマイズする。この利用者切替えでこの機体を社長の永田さん以外のオペレータも使用しているという。
EW60Eの導入ポイントを聞いてみた。
新機種導入に当たり、永田さんが出した要件定義は2点。
スチールリスト社のチルトローテータを使いたい
フットコントローラーでは出来なかった細かな作業を行える仕様にしたい
勿論、日本の他メーカーでもスチールリスト社のチルトローテータは取り付け可能だが、ボルボの機体との相性と組み合わせの信頼性から導入を決定した。
実際に永田さんに操作をしていただいた。機体の移動、アーム、ブーム、アタッチメントの動きがとてもスムーズで熟練オペレータの操作そのものである。
言われなければハンデキャップのあることに気が付かないレベルである。しかし、ここまでのレベルに達するのは並大抵のことでなかったであろうことは想像に難くない。
今では操作は問題なく出来るが、3日くらい連続で作業をしていると左の二の腕の筋が痛くなってくる。細かな操作のし過ぎで指も攣りそうになる。と永田さんはいう。
「左のスティックに、腕置きみたいなのを付けられないかな。佐藤さんなんか考えてよ」と担当営業に相談する場面も。
次にボルボ建機を買うなら何にするかを聞いてみると「ECR355E」とのこと。
㈱SKYの担当営業 佐藤さんとカタログを見て諸元を確認。
ネックになっているのはクローラーの幅。作業時には安定性の面からこの幅が必要なのは理解しているが、機体輸送時には幅が広すぎると言う。「移動時には”格納モード”みたいなのでクローラー幅を狭くして、現場に行ったら広げる。構造的には可能だと思う」
「ここが解決されたら、俺買うよ」と熱い提案をいただいた。
EV建機について聞いてみると。
静音性や排ガスの点では確かに環境にやさしいとは思う。ただ、電源の整備されていない現場では発電機を持ち込んで、燃料を使って発電してから充電する。運用のトータルで考えると、まだ「環境にやさしい」とは言い切れないと思う。とのことだった。
日本では2024年4月から助成金もスタートする。EV建機のインフラ整備が追い付くと両輪が揃って普及して行くだろう。
ICT施工について。マシンガイダンスは既に導入していただいているが、マシンコントロールについて聞いてみた。
10年くらい前にマシンコントロールを見たときには、まだ発展途上に感じた。今は技術自体が成熟した感があるので、機会があれば導入を検討したいとのことだった。
更に、遠隔操作について聞いてみた。
「いいよね。欲しいよね(遠隔操作の)コクピット!」オペレータが現場に赴かなくても操作が可能になる時代の到来には大きな期待を寄せているようだ。
キャビン側のブームには会社のマークとロゴ。反対側はVOLVOだ。
更に後ろ側、キャビン下部にも会社のマークとロゴ。下にはVOLVOのロゴ。ジェイビルドの仕事を力強く支えるVOLVO、といったところだろうか。
最後に永田さんにとってこのEW60Eはどんな存在か伺った。
「これがないと仕事にならないし、大事な相棒、かな」
そう言って機体を見上げる永田さんにとってのEW60Eは、正に頼もしい片腕なのだろう。